ダッハシュタイン、神々の造形

ハルシュタットからダッハシュタインへ

 ハルシュタットからバスでオーバートラウンへ向かう。
オーバートラウンとは、ハルシュタット湖南端に位置する村。
鉄道駅でいうと、ハルシュタット駅の次の駅だ。

 ここには、ダッハシュタイン山塊を望むことが出来る展望台がある、クリッペンシュタイン(2109m)へ向かうロープウェイが運行している。山の中腹にあるダッハシュタイン大氷穴、マンモス洞窟
も大きな見所だ。
 詳しくは、下に簡単な地図を載せたのでそちらを参考にされたい。

 ザルツカンマーグートの町や村を結ぶポストバスを利用してロープウェイ乗り場へ。ハルシュタット~ダッハシュタインバーン(ロープウェイ乗り場前駅)までは、約20分。

 ポストバスはザルツカンマーグートをくまなく走ってはいるのだが、この線に限らず、本数は数時間に1本程度なので、乗る前には時刻表を調べておくことをおすすめする。

 ちなみに、「サウンド・オブ・ミュージック」をご覧になった方はご存知かと思うが、ザルツカンマーグートとは、ザルツブルク南東一帯のいくつかの湖と2000m級の山々が織り成す美しい自然地域を言う。
町や村のある地域でも標高が500~800m程度なので、夏は避暑に、冬はスキーやスノーボードにと、1年中客足の絶えない景勝地なのである。

駅は入り口駅を入れて4つ。
真ん中のシェーンベルクアルム駅が一番の見所で、ダッハシュタイン大氷穴とマンモス洞窟がある。
クリッペンシュタイン頂上駅は山の世界を展望したい方のための駅。グジャイダルム駅については、あまり説明書きがなかったのだが、どうやらダッハシュタインを登山したい方と、高山植物が見られる場所のようだ。

 正直、ハルシュタットというのは風光明媚なところではあるのだが、観光客が1日以上時間をつぶすには、やることの少ない村だ。
そこで、バスで30分足らずのオーバートラウン村にあるダッハシュタインへ向かった。
この日の予定はダッハシュタイン見物と、ハルシュタット塩坑の見学の予定。

 しかしながら、ハルシュタット編で塩坑見物が3日目になっていたようにお分かりのように、後にこの計画は崩れることになる。
 ダッハシュタインは、思いのほかおもしろく、隅々まで見ると丸一日を要する。
ハルシュタットのついでに・・・と考えておられる方がもしいたら、主な見所のあるシェーンベルクアルム駅にある洞窟や博物館の見物のみにすることをおすすめする。

 さて、いよいよダッハシュタインのロープウェイに乗り込むぞ!
ここは観光地とはいえ、ザルツカンマーグートのかなり端っこ。見学者に日本人は私しかいないし、表記はすべてドイツ語オンリーだ。私を見て皆少し不思議そうな顔をしている。
これはおもしろくなってきた。
 日本人すらいないとなると、こりゃぁ本格的にド田舎まできたんだなぁ・・・となんとなく感動。
 英語とイタリア語のパンフレットが、申し訳程度に置いてあるのを発見したので、英語版を手に入れていざロープウェイへ。

 週末ということもあり、シェーンベルクアルム駅へむかうロープウェイはすし詰め状態だった。
来る時にキャンプ場を見かけたことからも、どうやらこのあたりは、オーストリアの人々の休暇のときのキャンプ地のようだ。

 切符売り場でダッハシュタインカードを購入。
28.5ユーロは安くはないが、これで丸一日楽しめたことを考えると、決して高い値段ではなかった。
それに正直、こんな山まできて多少の値段のことを気にしていたって仕方ないじゃないかとも思う。
 旅行も4日目、この頃になるとユーロ感覚にも慣れてくる。

はるかなる霊峰を望む 
~クリッペンシュタイン頂上駅、そしてグジャイダルム駅~

 山の天気は変わりやすいので、晴れ間が見えている今のうちに頂上を見物しておくことにする。シェーンベルクアルム駅でほとんどの人は降りたが、私は先にクリッペンシュタイン頂上駅へ向かった。

 シェーンベルクアルム駅以降のロープウェイはがらがらだ。管理者側もシェーンブルクアルム駅をメインと考えているらしく、そこと登山口駅以外のタイムテーブルは20分に1本くらいの運行状況となっている。

 クリッペンシュタイン頂上駅に着くと、景色は一変する。
荒々しいむき出しの岩肌。それの合間を縫って萌える緑。
木は生えておらず、草やわずかな花があるばかりだ。
 もちろん2000mちかいこともあり、風は強く肌寒い。

駅近くのカフェによってみたのだが、音楽はすれどもだれもいなかった。休業中なのだろうか?
 冬にはスキーヤーでにぎわうらしく、今は稼動していないリフトや、ホテルのようなものもあった。

 駅から徒歩15分ほどで山頂に。
晴れていたこともあり、ダッハシュタイン山塊の主峰・ホーエル・ダッハシュタインもきれいに見られた。
荒涼とした白い岩肌、その間を塗りつぶす緑、眼下の雲海、遠くに見える万年雪と氷河。荘厳な神の芸術だ。

 山頂付近には、小さな礼拝堂を見つけた。
しかし、今の季節は利用されていないらしく、閉鎖されていた。
冬には、この神の屋根で祈りをささげる人々が来るのだろう。

 ひとり山頂のベンチに腰掛けて、山々をぼんやりと眺める。
日差しは強いが、標高と風のせいで肌寒い。
だがいい気持ちだ。
 こういうところにいると、自分が世界の端っこにいるんだなという気持ちになる。
考えてみれば私は、日本でいろいろなことを抱えていて、それを少し置いておきたくて一人でここまで来たのだ。
 たとえば、ここで私がまったく道のない方向へ歩を進めたら、おそらくは一生誰にも見つかるまい。
 もちろんそんなことはしないが、どうしようもなく自由なのだと実感する。さびしくもあるが、この自由さがなんとも心地よい。

 そして思う。
たとえどんなことがあったとしても、世界にはこんなにも自由な空間があるのだ。
何をしたって、私1人がいる場所くらい残されているだろう、と。
 そして、私1人が消えても、この空間は完璧なものであり続けるのだ。
 それは、たとえようもない自由だ。

 山頂駅からグジャイダルム駅へ。
グジャイダルム駅について述べることは特にない。
本当に山の真ん中にある小さな谷だ。
ヤギのものと思われるフンがたくさん落ちている。
 何組かのハイキング客がこの駅から山へ出発する。
暇そうなロッジの主人が笑いかける。

シェーンベルクアルム駅で腹ごしらえ

駅の前には、切り立った崖がそびえ立つ。

駅にはビュッフェ形式のレストランがある。
ベーコンでまかれたソーセージの中にはチーズが入っていて美味だった。しかし、多くとりすぎた・・・・。

駅の前の道は分かれ道になっている。
右がマンモス洞窟へ。左は大氷穴へ。
ちょうど岐路になっている場所には、小さな博物館がある。

 山頂とグジャイダルムで思った以上に時間をつぶしてしまった。
時刻はすでに13時半を回っていたので、シェーンベルクアルム駅まで降りて、昼食をとる。

 シェーンベルクアルム駅は、一番の見所を備えている駅だけあり、とても立派なカフェや土産物屋がある。
レストランの値段は平地よりはやはりやや高いが、それでも良心的な値段だ。意外にも、ここで食べたソーセージは焼き立てでおいしかった。これはうれしい!

 駅の目の前で、道は二つに分かれており、右はマンモス洞窟へ、左は大氷穴へ続いている。

 ここで要注意!
どちらへ行くにしても、駅の受付で切符にグループ名を書いてもらう必要がある。
これは、マンモス洞窟も大氷穴も、ガイド付きのグループでないと見学できないしくみになっているため。
受付でどのグループかに割り当てられないと、入ることが出来ないのだ。

 私は最初それを知らずに、ものすごい急な坂をのぼって大氷穴まで行ったのだが、上った後でそのことに気づき、引き換えしてグループ名を書き加えてもらった。
おかげで、結局もう一度急な坂道を登らねばならなかった。

どちらにいくにしても、かなり歩くので、引き返すのは大変。
かならず事前に受付で整理番号を書き込んでもらおう。
なお、混雑時には順番を待たされる場合もあるが、小さな博物館や公園があるので、時間をつぶすことにはことかかない。

ちなみに、どちらも駅から徒歩20分程度のところが入り口。
受付でだいたいの行きたい時間を言うと、それ相応のグループに割り当ててもらえる。

 この時点で、パンフレットから「大氷穴は-0~3度」という情報を得る。Tシャツとカーディガンだけの私、大丈夫なのか・・・・?

広くて寒いマンモス洞窟

さて、受付でグループ割り当てを書き込んでもらったところ、
「先にマンモス洞窟が閉まるから、先にそっちにいったほうがいいよ」
とのこと。
さっそくマンモス洞窟へ向かう。

 どうやら大氷穴のほうが圧倒的に人気があるらしく、マンモス洞窟への道はほとんど人がいなかった。
本当にこの道でいいのか?と思っていると、洞窟前の待合所に人が何人かいたのでほっとする。

 洞窟への入場は、ガイドツアーのみと制限されており、ツアーとツアーの間は鉄の扉が閉じられていた。
いやがおうにも期待はたかまる・・・

 洞窟内はかなり広く、そして寒い!
大氷穴は寒いと覚悟していたが、こちらがこんなに寒いとは!
ツアー約1時間の間に、骨の髄まで冷え切ってしまった。

 洞窟のツアーガイドはドイツ語のみ。
ほとんど何を言っているのか分からないが、ゼスチュアを加えてくれるので、「ここでマンモスが水を飲んで・・・」とか「ここで骨が発見されて・・・」とか、おおまかなことは大体分かった。

 それにしても、ところどころにマネキンが置いてある演出は私にはついていけない。
こちらの人はこれがおもしろいのだろうか?

 約1時間のツアーを終え、外へ。
ひたすら寒い思いをした後の太陽は格別だ。

小学生の頃、「ふしぎの海のナディア」というアニメで、潜水艦で暮らしていた主人公たちが、浮上した際に、
「太陽がこんなにいいものだったなんて」
といっていたが、まさにその通りだと思う。

 理論的には、地底や陽光の届かない場所での生活も可能なのだろうが、やはり人間には太陽の恵みが必要だ。

太古よりの時間が凍る大氷穴


ダッハシュタイン、最大の見所、大氷穴へ!
ここは万年雪が眠る氷の洞窟だ。
駅から急な坂道を20分ほどのぼると入り口がある。
この坂道がきつい。
 運動不足の編集者が上るような道ではない。
山の神様が私を試しているのか・・・・?

 実はマンモス洞窟へ行く前に、整理番号をもらうことを知らず一度上っていた。
その際、周りの人が整理番号をもらっているのを見て、勝手に整理番号を捏造しようかと思ったが、思いとどまった。

 大氷穴はかなり寒いと聞いていたので、Tシャツの上にノースリーブを重ね、さらにカーディガンを持参した。
これが今回の旅行で私が持っている最強装備だ。

 まわりをみると、やはり山へいくということで、ウィンドブレーカーやトレーナーを着ている人が多い。
のほほんと軽装できたオオバカモノは私くらいかな、と思っていたら、何人かはノースリーブに短パンという私以上の軽装の人もおり、妙な仲間意識を1人で勝手に抱く。

 ガイドツアーで中を見学する。
こちらは簡単な英語ガイドもあるので、大まかな内容は分かった。ただ、ドイツ語でのガイドには常に笑い声が起きていたので、やはりそちらのほうが楽しいのだろう。うらやましいことである。

 洞窟内の氷は、もう何万年も溶けていないとのことだ。
洞窟内は想像よりはるかに広く、見学するのに1時間半ほどかかった。照明効果もよく考えられており、これは観光の目玉になるよな、という感じ。

 氷穴のツアーは16時30分からのツアーに参加したのだが、本日の最後から2番目のツアーだったらしく、ぎりぎり参加できてラッキーだった。

終バスを乗り逃す

氷穴を出た時点で、すでに時刻は18時を回っており、登山口駅からハルシュタットへの終バスは出た後だ。

 オーバートラウン駅から帰るのでもよいのだが、登山口駅から鉄道駅のオーバートラウン駅までは森の中の道を徒歩30分ほど行かねばならない。

 日も傾いてきたし、観光客(ほとんどは自家用車で来る)もどんどん帰り始めている。
知らぬ土地で1人でいるのも怖いので、タクシーを呼ぶことにする。
 山奥なのでだいぶ待つかな、と思っていたのだが、電話ボックスに貼ってあったシールをたよりにタクシーを呼ぶと、元気な女性ドライバーのタクシーが10分ほどで迎えに来てくれた。

 無事にハルシュタットへ着き、夕食代わりのスープとパンをカフェで食べながら、日誌を書く。
 今日行く予定だったハルシュタット塩坑はいけなかったけど、ダッハシュタインは思った以上に楽しい場所であった。

 ダッハシュタインでは、久しぶりに真に孤独な心持になれた。
不思議なことに、たった一人でいると、何もかも受け入れられるのだ、と思える。
 自分が何を持っていて、何を持っていないかが分かるからだろう。
いかに多くのものを私は持っているのか?
知ることは大切だ。
そして、知ったものを抱きしめることはもっと大切だ。

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